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​1/70億の物語

今まで製本を手掛けてきた方たちが、どんな想いで本を作ろうと思ったのか、実際に作るなかでなにを得られたのかをご紹介します。世界に70億人いるなかで唯一の物語たちです

父から受け継がれてゆく物語 鈴木 英智佳さん / 父にプレゼント

依頼へ繋がった想い

父が元気で記憶もしっかりしているうちに、一冊の本として記録に残してあげたら喜ぶかなと思ったのがきっかけでした。というのも、すでに自分の生い立ちなどを自ら書き残していましたが、どこの会社のどんな部署にいて、どんなところに行ってなどと事柄ばかりが書いてあり、それは正直に言うと息子達からしてみればすでに知っていることやあまり興味の湧かないものでした。

そのときにどんな想いをもっていたのか、どんな気持ちで臨んだ出来事だったのか、どんな悩みがあったのか、そんなことを息子として知りたくて依頼しました。もともと生い立ちや経歴を残すのが好きな性分ということもあり、父に話をしたところすぐに喜んで受けてくれました。

父の人生を聴いてみて

父の70年以上に及ぶ人生が一冊の本に凝縮され、その節々で父が思い描いていた感情を改めて知ることで、父の存在が自分の中に入ってきて、時間を超えてつながる感覚を覚えました。父へのプレゼントのつもりで始めたことですが、まさに家族のつながりをあらためて実感し、自分のルーツを再発見する、そんな時間になりました。

子供の頃にも、父は昔の話を語ってくれていましたが、あらためて私自身が結婚して二児の父となった今のタイミングになって聴くのとでは、やはりリアリティーが変わります。また、親子間ではなかなか正面切って聴けない話も、このような機会に聴けてよかったなと思いました。

 

 

完成した本を手にして

セッションの大半に立ち会いましたが、あらためて本となったものを読み返してみると、「父が何を大切にしてきたのか?」、「どんなことを感じてきたのか?」。人生の濃淡が伝わってきて、その存在が自分の中に入ってくる感覚を覚えました。

 

次の時代を生きる子供たちへ

長女はかなり漢字が読めるようになってきているので、自分について書かれているページを早速読んでいました。私が幼少期にアメリカで過ごした頃のことを話すと、興味深そうに色々と質問してきました。今は子どもたちにとっては、ひとりのおじいちゃんとしてしか見えていないと思いますが、やがてこの本を手にとって、親のルーツとも言えるその人生の物語に触れる時がやってくるでしょう。父が元気な内に、本人の言葉を元に、その生き様をこうして一つの形として残せてよかったと思います。

 

2013年 9月 

愛されていた自分に出会う R・Hさん /  自分の物語を語る

依頼へ繋がった想い

自分がどのような気持ちで人生を歩んできたのかを、父に知ってもらいたい。子供(高校生)にも、自分がどんな人生を歩んだのか残しておきたい。そんな気持ちがきっかけとなり始めました。もともとは父にやってもらいたかったのです。というのも私には父への想いとして、大好きな父である一方で、そのわがままさに振り回されたという思いが私のなかにずっとありました。それは解消できずにいました。そこで父がどんな想いをもっていたのかを知りたくて、父にインタビューをしてもらおうと、父に話をしたら「そんなもの自分でできるからいらない」という返事が・・・。

そのとき私の想いを踏みにじられたみたいで今までの振り回されてきたあの憎たらしい気持ちが出てきて「だったら私がインタビューを通してこれまでの父への想いを伝えよう」と決めたのです。

全てに意味があった

自分の過去にはもちろん思い出したくない嫌な思い出もありますが、それも含めて聴いてもらうことで、全てに意味があったのだと過去を肯定できるようになりました。あの経験があるから今の私がいるのだということが、自分で認められるようになり、気持ちがすっきりしました。これは、自分では書くことができなかったと思っています。

 

 

父への気持ち

私の父への気持ちをセッションを通して再確認できたことが非常に大きかったと思います。両親の私への関わりを話すことで、「ああ、自分は愛されていたんだな」と改めて確認することができました。また完成した物語を読んだ父から、普段は言葉にしないような私たち子供への愛情深さや出来事に対する想いがつづられたメッセージが届きました。誤解していたこともあったことを知り、「そうだったんだ!」という誤解が解けて安堵感を得られました。今回のことをきっかけにして、親子の間での誤解や疑問が解けて、愛情が伝わり、伝えられとても良い体験でした。

2013年 5月

亡き祖父の想いを形にする  由起子さん / 祖父について家族が語る

依頼へ繋がった想い

祖父が亡くなって10日、葬儀が終わって5日後に依頼しました。その時のことを思い出すと、祖父が亡くなったことへの悲しみを紛らわすためというよりは、祖父の生き方を、私に伝えたかったであろうメッセージを、確実に受け取り、形にして、受け継いで行きたいという強い想いでした。決して安い買い物ではありませんでしたが、今しかないと思い母や伯父、それから祖父といっしょいに働いてくださっていた従業員の方に相談し、思い切ってお願いをしました。

祖父の人生に触れて、感じていること

私の中に一番強く残っているのは、意外にも祖父の真面目な生き方ではなかったことに驚いている自分がいます。いつも祖父を支えてくれた、親・兄弟・妻・子どもたち・そして仲間との温かい交流です。今回お願いする時「昔の人は貧しくても辛くても乗り越えられるパワーがあった。今の時代を生きる私たちには到底無理なことも平気でやってのけていた。その秘密を少しでも知って生きる糧にできたら」と話しました。

でもこの体験を通して、昔の人は決してひとりではなかった、お互いに支えあって生きていたのだということがわかりました。もっと人と人との心の距離も近かったのだと思いますし、「誰かのために生きる」ことも、きっと何よりもの強さになっていたのだと思います。

まじめに、という言葉の中には「自分に対しても人に対しても誠実に向き合うこと」も含まれていたのかもしれません。

自分の人生への影響

去年会社で辛いことがあったとき、私は「おじいちゃんだったら何て言うかなあ」と思いつつ相談できずにいました。今でもそれは悔やまれるのですが、一年経って振り返ってみれば、本当に多くの人に支えられ、ただただ目の前のことに真摯に取り組むことで、少しづつ新しい環境のなか周囲の信頼を得ることが出来ていました。祖父のメッセージは、知らず知らずのうちにちゃんと受け取っていたんだなと思います。

 

あとは、もっと周りを頼ったり自分から手を差し伸べたりしながら、周りの人と助けあって、より良い人生を送っていきたいなと思っています。そしてやっぱり、ホスピタリティ関係でも英語の先生でも、人と関わる仕事をずっと続けていきたい。それを再確認できた事も、大きな収穫でした。

 

じいたん、ありがとう。じいたんの孫に生まれることができて、ほんとうに幸せです。そして後藤さん、聴き書きをしていただいて、ほんとうに良かったです。ありがとうございました。

 

 

聴き書きをお願いして

「亡くなった人について周りの人に話しを聴いて本を作る」というこの初の試みを快く引き受けて下さった後藤さんには、本当に感謝しています。色々とご迷惑をおかけすることもありましたが、いつも誠心誠意対応してくださってありがとうございました。
 

本が完成してはじめて伯父に届けたとき、それまで生きる気力さえ無くしていたのが、とても穏やかな表情で「おお!できたか!」と心から喜んでくれて、私も本当に嬉しかったです。思い出すだけでも辛そうな時もありましたが、語ることによって悲しみが浄化され、癒されたのだと思います。「伯父さんにまだまだ訊きたいことがあります!おじいちゃんの分まで元気でいてください」という私の想いも伝わったのかもしれません。


本が完成して1年以上が経ちますが、私は普段から本当によくこの本を手にとり読んでいます。大好きな祖父のことがたくさん書いてあるので、読んだあとはとても幸せな気持ちになれるんです。

祖父のイメージで選んだ「柿」色の表紙も、触れるだけでとても温かい気がして、とても気に入っています。この本は一生の宝物です。



 

2013年 5月

聴き書きは自分自身の内側に深く入るキッカケ  亀田啓一郎さん / 自分の物語を語る

※亀田さんご自身が聴き書きを行い、また聴き書きの要素をつかって企業内での関係創りやお互いを知ることを目的としたプログラム(ストーリーリスニング)を一緒に創りました。そして実際にある企業にて行った効果をインタビュー形式で話していただきました。

話し手:亀田啓一郎さん

​経歴:株式会社リクルートを経て独立、さまざまな業界の営業部門に特化したコンサルティングや研修を行う「株式会社PROJECT PRODUCE」を設立。大手上場企業から従業員300名クラスの中堅企業・ベンチャー企業を幅広く担当。また著書として「売れる営業チームに育てる「シクミ」×「シカケ」」の執筆も手掛ける。

 

自分の物語を語ることについて

聴き手:インタビューしたのは、2年前ですね。

亀田:2年前。結構経ったね。

岳:その当時受けた聴き書きがどうだったかを聞く前に、少し間もあいているので、聴き書きを受けた後の人生はどんな人生だったのかをちょっと話をしながら、進めたいと思います。

(2年間を振り返って、掘り下げていく二人。)

 

岳:この2年間のことについて語ってくれましたけど、まず「語る」ということについて聞いてみたいのですが、亀ちゃんにとって「語る経験」はどんな意味がありましたか?すごく聞いてみたいです。

亀田:コーチングでも一緒なんだろうけど、「問いを持って話す」ということには、意味があるよね。「自分の過去を振り返る」というのはひとつの手法であって、振り返るためのひとつのアプローチ方法なんだろうね。だから、色々な振り返り方があるし、聴き書きはそれと同じ効果があると思う。それに聴き書きのスタイルである「過去から時系列で話す」ということ自体、話しやすいね。とても。

 

岳:話しやすいというのは、記憶をたどりやすい?

亀田:そう。記憶をたどって話したほうが、漠然と考えるよりも話しやすい。場面が出てくるからね。

それから、聴き書き、ストーリーを語るというのは、最初のきっかけになってるのかもしれない。結局、話の半分は、ストーリーから派生していったものを深めていっている感じだから。ストーリーって、最初のきっかけづくりなのかもしれないね。話しやすい材料が出てくるっていう。

岳:それを話すことによって、自分のより深い所に入って行くきっかけになっている。

亀田:そうそう。きっかけになるんじゃないかな。

 

歴史は繰り返す―自分の行動特性に気づく

亀田:あとね、聞き書きのポイントって、過去からの自分の行動特性がわかるというところが大きいと思いますよ。

「ああ、前もそうだったのね」ということとか、「小さい頃からこれが嫌だったんだよね」って。

若かりし頃も同じことがあったんだ、とか、自分の琴線に触れるところはここなんだ、とか、こういう状態になると、すごく抵抗を感じるとか。

こういうのは、そんなに簡単に変わるもんじゃない。そこを自分の歴史と紐付けて再認識する、というのは、聴き書きならではじゃないでしょうかね。そう思うけどな。「歴史は繰り返す」の世界。自分の中にある再現性のポイントはどこなのか?というところに気づくという気がしますね。

岳:まさに自分は何者なのかを知ることになりますね。

 

仕事に取り入れてわかった聴き書きの効果

亀田:組織の中の関係性という観点から見ると、ストーリーリスニング(≒聴き書き)は究極の自己開示という部分があって。そこの効果は大きいかもしれない。

岳:それはそうだよね。

亀田:ちょうど昨年、ある会社の管理職を選出するための研修のプログラムを組んだことがあって。参加者は10人ほどで、全員が次期幹部候補だったんだよね。実際に半年間ほど行ったこのプログラムの中に、ストーリーリスニングも入れたんだよ。

そのうち8人は昇格して、今、マネージャーになっているんだよね。そこの社長さんから「すごくよかったよ」って、そのプログラムはとても高い評価を得たんだけれどもね。

つい1ヶ月ぐらい前かな、この8人と研修プログラムの振り返りコーチングとインタビューを1人1時間半ほどかけてやったんだよね。「管理職になって半年間経ってみて、どうだった?」「研修プログラムをどう活用している?」「何か印象に残っていることはある?」とか沢山質問したんだけど、この中でストーリーリスニングについて「いやあ、あれはよかったですよ」と、結構みんな挙げていて。

 

本音が話せる関係性、チームの一体感が生まれる

亀田:何がよかったかっていうと。あのプログラムに参加したメンバーが同時に昇格してるんだけど、研修中に結構腹を割って話せた。そして今、隣同士の部署のヘッドになっているんだけど、関係性が全然違うから、話しやすいというのが一番大きいと。

やっぱり、プライベートな部分もいっぱい出てくるから、表面的に見て、こういうやつだろうと思っても、実は「こいつこんなに苦労してるんやな」とか「こういう思いで来てるんだ」とか「こいつはこれをやりたいんだろうな」というベースの部分がわかる。だからコミュニケーションしやすい。そして本音を言いやすい。

さらに、自分の部署のメンバーとも、同じことをやってるんですよという人が結構いて。すごい効果があったんだっていうのを、実感したんだよね。

岳:へえ。すごい!

やっぱり、ストーリーを聞いたり話したりすることが関係性にも影響している、そして関係性が結果に反映しているということが、分かりやすく出ましたね。これは聴き書きインタビューを家族で行ったときにも起こります。

亀田:分かりやすく出た。だからすごく良かったんじゃないかなと思って。機能している。やっぱり関係性が進むっていうところが。相互理解ということなんだけれどもね。よかったと思うんだよ。

岳:それはすごい嬉しいね。

亀田:だから、やったらいいと思うんだ。これは一つのプログラムとしても機能しているんじゃないかって。まあこれは、組織に取り入れたという例だけどね。結局、ストーリーというのを聞いて深堀しやすくなるんだろうな。

岳:聴き書きの経験を仕事に取り入れているのは私も嬉しいです。今日はありがとうございました。

 

聴き手感想(後藤岳)

ご自身が語ったことで、語ることの意味をよく理解しているのがうれしいです。語ることで自分がどんな存在なのかを知ったからこそですね。経験したことを活かそうとするのも亀田さんらしさがでていて聴いていてとても興味深かったです。

書き手感想(岡部智子)

過去を振り返り話していくことで、自身とも、周囲の人とも、より深い関係性が生まれる効果を昔から知り、自身の仕事にも活用している亀田さん。

職場にストーリーリスニングを取り入れるインパクトは大きいと感じました。物語の効用、広がっているんですね。リアルタイムでの貴重なお話、ありがとうございました。

 

2016年 11月

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